基礎研究

失われた神経機能を取り戻せ!
〜細胞を補充するための3つのアプローチ〜

ジョ~ジ
ジョ~ジ
こんにちは。創薬研究者のジョ~ジです。

最近、ミクログリアに遺伝子を1つ発現させるだけで神経細胞に変化し、脳梗塞や脊髄損傷の治療につながるかも?

という論文が発表されて、新聞やWeb、Twitterで話題になってましたね。
脳神経、iPS使わず再生 1つの遺伝子導入で(日本経済新聞、2019/1/10)
免疫細胞から神経細胞、脊髄損傷の治療にも光 九州大(朝日新聞デジタル、2019/1/10)
脳内に存在する免疫細胞から機能的な神経細胞の作製に成功(九州大学プレスリリース、2019/1/10)

考え方としては、
脳梗塞や脊髄損傷、神経変性疾患で失われた神経機能を、神経細胞を補充することで補填しよう
というものですね。

せっかくなので、この記事では、
どのように神経細胞を補充するのか?
について、3つのアプローチを”なるべく簡単に”紹介してみようかと思います。

本記事の読者としては、専門外だけど、
・上記の報道内容に興味のある方
・再生医療に興味のある方
などを想定しています。
目次
  1. 神経幹細胞の賦活化 〜元々頭の中にいる幹細胞を利用する〜
  2. 細胞移植 〜外から補充する〜
  3. 分化転換 〜頭の中のヤンキーを更生させる〜
  4. 最後に

冒頭に紹介した、ミクログリアを神経細胞に変換する、というのはこの中でいう③に該当します。

関連するざっくりとした研究の歴史も振り返りつつ、最後までお付き合いいただければと思います。

神経幹細胞の賦活化
〜元々頭の中にいる幹細胞を利用する〜

神経細胞は再生しないって本当??

子供の頃、友達との喧嘩や親からの叱責で頭を叩かれた時、

マセガキ1号
マセガキ1号
貴重な灰色の脳細胞が死んじゃうだろ!!

なんて突っかかったことありませんか?(ねーょwww)

1928年にCajalという研究者が、「成体哺乳類の中枢神経系は損傷を受けると二度と再生しない」と提唱して以来、ずっとそういうものだとされてきました。

しかし、その後の研究で、成長した後も、脳室下帯と、海馬の2ヶ所(いずれも脳内の場所の名前です)に神経幹細胞という細胞がゆっくり増殖をしながら残っており(自己複製能といいます)、神経細胞アストロサイトオリゴデンドロサイトの3種類の細胞に分化する(多分化能といいます)ことができることが分かってます。

つまり、神経細胞の元となる、自己複製能と多分化能を併せ持った細胞が元々頭の中に残っているというわけです。

大人になっても頭の中には神経幹細胞が存在する

内在性神経幹細胞を用いた神経細胞の補充

そこで出てきたアプローチとして、
じゃあそいつら利用すればいいんじゃね?
というわけです。

つまり、飲み薬などによって、
・神経幹細胞の増殖を促す
・神経幹細胞から神経細胞への分化を促す
というアプローチです。

メリットとしては、
・侵襲性がない
・腫瘍化のリスクが低い
・免疫拒絶反応のリスクが低い
ということが挙げられます。

一方、デメリットとしては、
・神経幹細胞が存在する場所が限られる
・神経幹細胞の絶対数が限られる
ということなどが挙げられます。

    ・侵襲性がない
    ・腫瘍化のリスクが低い
    ・免疫拒絶反応のリスクが低い
    ・神経幹細胞が存在する場所が限られる
    ・神経幹細胞の絶対数が限られる
なお、2018年3月ごろから、本当にヒトの大人も神経幹細胞が残ってるのか?という議論が再び盛り上がってます。(Sorrells et al., Nature., 2018)

細胞移植
〜外から補充する〜

中絶胎児から神経幹細胞を取ってきて移植する

頭の中に元々いる神経幹細胞は限られた場所に限られた数しか存在しません。

それなら、
体の外で沢山作ってから頭の中に補充すればいいんじゃね?
という考えが出てきます。

神経幹細胞は胎児には沢山存在しますし、前述の通り、自己複製能も持ってます。

さらに、体の外で培養し、大量に増やすこともできます。

そこで、妊娠中絶になった胎児から、必要量の神経幹細胞を用意し、そのまま、もしくは目的の神経細胞に分化させて移植するという方法が検討されてきました。

神経細胞と一口に言っても、脳の中には色々な種類の神経細胞があります。(例:ドパミン神経、運動神経、アセチルコリン神経 など)

すなわち、胎児由来の神経幹細胞を用いるメリットとして、
・実験室で増やせる
・大量に増やせる
ということが挙げられます。

一方、デメリットとして、
・倫理的な問題が付随する
・培養を重ねることで性質が変化する(※)
ということが挙げられます。

(※)初期は神経細胞になりますが、徐々にグリア細胞へより分化し易くなります。また、分化できる神経細胞の種類も徐々に変化します。
    ・実験室で増やせる
    ・大量に増やせる
    ・倫理的な問題が付随する
    ・培養を重ねることで性質が変化する

ES細胞から神経幹細胞や神経細胞を作って移植する

ES細胞(Embryonic stem cell; 胚性幹細胞)は精子と卵子が受精し、少し発生の進んだ段階の受精卵(胚盤胞期)から作製される、体の”ほとんど”の細胞になることのできる、多能性幹細胞(Pluripotent stem cell)の一つです。

ES細胞はしばしば”万能細胞”とニュース等で紹介されますが、胎盤などの胚体外組織にはなれません。そのため、”万能”ではなく、”多能”というのがより正確です。

前の項で説明した神経幹細胞は、培養する過程で徐々に性質が変化していきます。

そのため、大量調製が可能とはいえ、ある程度の限度があります。

一方、ES細胞は神経幹細胞よりも、もっと’若い’状態(未分化)であり、より色々な細胞へと分化することができ、神経幹細胞にも分化することができます。

したがって、
ES細胞から神経幹細胞や神経細胞を作って移植すればいいんじゃね?
という考えになります。

メリットとしては、
・実験室で増やせる
・大量に増やせる
・神経幹細胞の性質の変化を気にする必要が減る
というのが挙げられます。

一方、デメリットとしては、やはり受精卵を使うことになるので、
・倫理的な問題が付随する
というのが挙げられます。

    ・実験室で増やせる
    ・大量に増やせる
    ・神経幹細胞の性質の変化を気にする必要が減る
    ・倫理的な問題が付随する

iPS細胞から神経幹細胞や神経細胞を作って移植する

ES細胞を用いる際の倫理的な問題を回避できると考えられているのが、iPS細胞の利用です。

iPS細胞というのは、皮膚や血液などの、すでに分化が完了した細胞に、数個の転写因子と呼ばれる遺伝子などを用いて、再度様々な細胞へと分化することができる状態(多分化能の獲得)にした細胞のことです。

人工的に多能性を有する幹細胞の状態にしていることから、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell; iPS cell)と呼ばれてますね。

メリットとしては、
・実験室で増やせる
・大量に増やせる
・神経幹細胞の性質の変化を気にする必要が減る
・受精卵を使わないため倫理的な問題を回避可能
というのが挙げられます。

一方、デメリットとしては、なぜ&どのようにiPS細胞ができるのか、未解明な部分も多く、
・安全性の課題が残る
というのが挙げられます。

    ・実験室で増やせる
    ・大量に増やせる
    ・神経幹細胞の性質の変化を気にする必要が減る
    ・受精卵を使わないため倫理的な問題を回避可能
    ・安全性の課題が残る

分化転換
〜頭の中のヤンキーを更生させる〜

3つ目のアプローチとして、
疾患で増えてくる悪者の細胞を神経細胞に変換してしまえば、悪者を減らして、かつ神経細胞も補充できて一石二鳥じゃね?
という考えです。

多くの神経疾患では、アストロサイトやミクログリアが活性化し、神経細胞にダメージを与えるような性質を持つようになることが知られています。(グリオーシスと言います。)

つまり、これら活性化したアストロサイトやミクログリアを神経細胞に変換し、他の神経細胞と信号のやりとりができるようになれば治療につながるのではないか?というアプローチがこれまでに研究されてきました。

冒頭に紹介した、ミクログリアにNeuroD1という遺伝子を発現させる論文というがまさにこのアプローチの基礎になる報告です。

この方法のメリットとしては、
・脳内に存在する悪者細胞を活用できる
・免疫拒絶反応のリスクが低い
といったことが挙げられます。

一方、デメリットとしては、
・分化転換の効率がまだまだ低い
・適切なタイプの神経細胞になっているか課題が残る
といったことが挙げられます。

    ・脳内に存在する悪者細胞を活用できる
    ・免疫拒絶反応のリスクが低い
    ・分化転換の効率がまだまだ低い
    ・適切なタイプの神経細胞になっているか課題が残る

最後に

いかがでしたでしょうか?
様々な原因により失われた神経機能を、細胞を補充する視点からのアプローチを3つ紹介してみました。

普段の科学系のニュースでこういったトピックが出てきた際は、是非どのアプローチによるものなのかを意識していただければと思います。

ただし、ここで紹介した3つのアプローチに共通する問題点も存在します。

・作られた神経細胞は周囲と適切な神経ネットワークを構築できるのか?

我々の脳内では、各種細胞がお互い密に連携を取りながら素早く正確な情報のやりとりを行なっています。

補充した神経細胞も適切にこのネットワークに取り込まれなければ意味がありませんよね?

日々面白い進捗が報告されてきてますので、適宜このブログでも取り上げつつ、この記事自体もアップデートしていければと思います。

もしこの研究ジャンルに興味を持ち、ときどきこのブログも覗きにきていただけると嬉しいです♪

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