論文紹介

【論文紹介】ヒトES/iPS細胞を用いた遺伝・環境的リスク因子の解析 〜市販の農薬に潜む糖尿病とパーキンソン病のリスク!?〜

ジョ~ジ
ジョ~ジ
こんにちは。創薬研究者のジョ~ジです。

こんな論文を見つけてある意味面白かったのでサクッと解説&所感を書いてみます。

目次
  1. 論文内容の解説
  2. この論文を面白いと思った3つの理由
    • 環境的要因に着目した化合物スクリーニング
    • 糖尿病とパーキンソン病に共通した細胞毒性
    • 市販の農薬が糖尿病とパーキンソン病のリスク!?
  3. この論文で明らかになっていないこと
  4. 最後に

論文内容の解説

ジョ~ジ
ジョ~ジ
まずはザックリと論文内容をまとめてみました。
秒でわかる論文内容
  • ヒトES/iPS細胞から誘導した膵β細胞を用いてToxCastライブラリーの化合物をスクリーニング
  • 膵β細胞に毒性を示す2つの化合物を同定
  • 細胞死のメカニズムがDNA障害を伴うネクローシスである
  • 細胞死に細胞内のグルタチオン量が関係する
  • 膵β細胞以外にも中脳ドパミン神経も障害されやすいことを同定
  • 中脳ドパミン神経に対する毒性発現機序は膵β細胞に対するものと同じ

各項目は画像スクリーニングやゲノム編集等を取り入れ、

綺麗な実験スキームとストーリーだと思いますが、ぶっちゃけ大したことしてないのでいちいち触れません。(笑)

というのも、この論文の本質であり、面白いポイントはそこじゃないからです。

次に、私がこの論文で面白いと思った部分について解説します。

この論文を面白いと思った3つの理由

環境的要因に着目した化合物スクリーニング

これまでのヒト疾患iPS細胞を用いた研究は、

  1. 家族性や孤発性の患者さんからiPS細胞を作製
  2. 特定の細胞へと分化誘導
  3. 疾患の原因を探ったり、治療薬のスクリーニングの実施

という流れで使われることが多かったです。

しかし、このアプローチでは、細胞そのものに原因があることが前提となっており、

我々の日常生活の影響、つまり環境的な要因については調べることができていないのです。

なお、ここでいう環境的要因とは、例えば食べ物や飲み物、シャンプーや虫除けスプレーなど、個々人のライフスタイルに依存するようなものをイメージしてもらえれば大丈夫かと思います。

その点、この論文では、ToxCastという、アメリカ合衆国環境保護庁(United States Environmental Protection Agency, EPA)(https://www.epa.gov/)が提供する化合物ライブラリーを用いています。

このToxCastというライブラリーには、4500種を超える、

医薬品、殺虫剤等の農薬、香料、着色料、日用品

に関連する化合物が含まれており、この論文ではそのうち約2000種を評価し、VacorPropargiteという2種の化合物に着目してます。
(ToxCastおよびTox21という2種のライブラリーに含まれる全化合物リストはこちらからダウンロードできます。物好きな方はどうぞ(笑))

こういった環境的要因に関するライブラリーを用い、多能性幹細胞から分化させた細胞での毒性を評価している点がこの論文の特徴かと思います。

私もこの論文で初めてこのようなライブラリーの存在を知りましたが、環境的要因の疾患への寄与に関する研究でもっと活用されるようになるのではないでしょうか。

アメリカ合衆国環境保護庁(EPA)とは?
市民の健康保護と自然環境の保護を目的とする、アメリカ合衆国連邦政府の行政機関である。大気汚染、水質汚染、土壌汚染などが管理の対象に含まれる。

リチャード・ニクソン大統領により設立され、1970年に活動を開始した。長官はアメリカ合衆国大統領により任命される。正規の職員数は約1万8000人であり、本部は首都ワシントンD.C.にある。
>>Wikipediaより引用

糖尿病とパーキンソン病に共通した細胞毒性

もともとこの論文にたどり着いたのは、ES/iPS細胞から神経系細胞への誘導と解析で有名な、Lorenz Studer博士の論文をInoreaderというRSSリーダーでフォローしてたからです。

しかし、初見では、論文タイトルとAbstractを見る限り、この論文の主眼は膵臓のβ細胞であり、なぜパーキンソン病で障害されるドパミン神経細胞の解析を行っているか分かりませんでした。

実はここがこの論文のミソなのですが、著者らは、
膵β細胞を障害する化合物が、他の臓器の細胞にも悪影響がないか?
についても調べ、ドパミン神経細胞への細胞毒性を見出しています。
(おそらくStuder博士はドパミン神経細胞への誘導方法について協力したものと推察します。)

このように著者らは、
ヒトES/iPS細胞と各種分化誘導技術を上手く活用することにより、
特定の化合物が、一見無関係に思える膵β細胞とドパミン神経細胞に対して毒性を示すことを見出した
のです。

分化誘導技術の進歩と化合物ライブラリーがあってこその知見でとても熱いですよね!!

市販の農薬が糖尿病とパーキンソン病のリスク!?

ここが一番サイエンスとして面白く、一方で社会的・疫学的に議論を呼びそうなポイントです。

この論文では、VacorPropargiteという2種の化合物を同定しています。

Vacorというのは、もともと殺鼠剤として使用されていたようですが、1979年にヒトで糖尿病を引き起こすことを理由として販売停止になっています。(NIH Haz-mapKaram et al., 1980)

しかし、もう一つのPropargiteという殺ダニ剤は、今でも”オマイト”という商品名で市販されており、Amazonや楽天市場から簡単に入手可能です。

(100%誰も買わないだろうけど初めてのアフィリンクを貼ってみる←)

今のところ、神経毒性については、海外と国内で以下の情報を拾うことができました。

Cornell大学の情報サイトには以下の通り書かれてます。

“Propargite is not an organophosphate chemical; therefore, it does not have a neurotoxic potential, and a neurotoxicity study is not required.” (引用元)

一方、日本では、独立行政法人農林水産消費安全技術センターのサイトから農薬抄録という各種薬物動態試験や安全性試験に関するデータを閲覧できますが、ざっと見た感じだと低用量での明らかな中枢神経系の一般および病理所見はないとのことです。

ではこのPropargiteという殺ダニ剤が、何に使われているのか?そして本当に糖尿病やパーキンソン病の罹患リスクがないのか気になりますよね?

普段口にする果物に使用されている

メーカーのホームページによると、

りんごやみかん、ぶどう、おうとう

といった果物に使用されるようです。
そこらへんのスーパーに行けば店頭に並んでますよね。。。
(敢えて引用元のリンクは貼りませんがググればトップに出てきます)

実際の罹患リスクはあるのか?

分かりません!
(`・ω・´)キリッ

いや、実際、独立行政法人農林水産消費安全技術センターの農薬抄録見ると本当に安全性に関する試験を色々と実施しているのが分かりますし、それらのデータを根拠として実際に使用されているわけですので、なんとも言えないのが現状です。
(消されたくないし(ボソッ))

ただ、脳に限って言えば、実験動物の中脳ドパミン神経細胞なんて非常に小さな集団ですので、今回の論文の結果を受け止めて、より詳細に再度解析すれば、新事実が得られる可能性はあると思います。

実際、すでにPropargiteで汚染された井戸水の摂取により、パーキンソン病罹患率が70-90%上昇するという疫学調査結果が報告されています。(Gatto et al., 2009)

ポイントとしては、Propargite脳移行性、半減期、慢性毒性あたりに着目するのがいいのでしょう。

農薬抄録にも一部データが載ってますし、ある程度計算はできますが、ここでは具体的な数字は出さないことにします。
(消されたくないし(ボソッ))

ただ、自分で計算した限りでは、論文で用いているPropargiteがかなりの高濃度であるのは間違いないです。

はい、というわけで、思いがけず市販の農薬が実験室の細胞レベルでは糖尿病とパーキンソン病のリスクになるかもしれないという内容でした。

この事例からも、ES/iPS細胞を用いてToxCast等の環境的因子ライブラリーを評価する有用性・必要性が言えるかと思います。

まだまだこれからな研究領域かと思いますので、多くの研究グループの参入が楽しみですね。

この論文で明らかになっていないこと

最後に、この論文でスッキリしない部分を挙げて終わりにします。

元々糖尿病にフォーカスしていたスクリーニングでしたが、思いがけず神経系にも展開することになったためか、

何故、膵β細胞とドパミン神経細胞にのみ細胞毒性を示すのか?という点の解析がそこまで十分にされていないように思います。

どちらかの細胞にフルパワー使っていればよりIFの高い雑誌も狙えたのかもしれませんが、

・異なる臓器の細胞を盛り込み、
・その結果解析も深められなかった

というあたりがNature Communicationsに落ち着いた理由なのかなと推察します。

最後に

さて、本ブログ1本目の論文紹介記事はいかがでしたでしょうか?

また、この論文の結果をみなさんはどう受け止めますか?

使用された果物の購入をやめますか?

よく洗って、かつ皮は食べないようにしますか?

それとも、今まで通り過ごしますか?

是非みなさんのコメントやご意見等を、下の問い合わせフォーム、もしくは質問箱からどうぞ(^ ^)v

ではでは今日はこの辺で〜ノシ

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