お薬

元気になるビタミン剤!?〜処方例から見る薬学教育における実務実習の重要性〜

ジョ~ジ
ジョ~ジ
こんにちは。創薬研究者のジョ~ジです。

突然ですが、皆さま自身や周りでこんなこと↓↓言ったり、思ってる人、いませんか?

一般人
一般人
薬剤師?薬局で薬の袋詰めしてるだけでしょ?
教員
教員
実務実習?せっかく実験教えたのに実習中に忘れちゃうじゃん(泣)
薬学生
薬学生
私、調剤薬局に就職したいから病院実習とかてきとーでいいや。
薬剤師
薬剤師
業務忙しいのに学生の相手なんてしてられるか〜!

6年制薬学部ができた当時、私の周りには肯定的な人は少なく、割と上のようなことを言っていた人が多かったように思います。

さて、今回の記事では、私が薬剤師の免許を取得してまもない頃、アルバイトしていた調剤薬局で出会ったおじいちゃんの処方を例にして、

6年制薬学教育において、病院と薬局、その両方での実務実習が大事

だと考える理由を説明していきます。

こう書くと、なんだか難しそうですが、要点を噛み砕いて書いたり、重要な部分だけ強調したりして、なるべく読みやすく書いてみました。

一般の方、薬学部の教員や学生、現役の薬剤師さんが、皆何かしらの「気づき」が得られると嬉しいです。

3行まとめ
  1. 薬剤師はちゃんと処方箋の内容に目を光らせて調剤している
  2. がん薬物療法を知らないと院外処方の意図に気づきにくい場合がある
  3. 病院と薬局、両方を経験することで薬剤師は成長する

それではまずは目次です。

目次
  1. ごくごく普通の処方箋
    ・処方箋への記載事項
    ・処方内容
    ・患者さんへの初回質問
  2. 薬局薬剤師とがん薬物療法レジメン
    ・処方科情報から読み取る処方意図
    ・抗がん剤アリムタ(ペメトレキセド)の作用機序と副作用予防
  3. 在庫のある薬局探しとおじいちゃんへの説明
  4. 気づくことができた、ただ1つの理由
  5. まとめ

ごくごく普通の処方箋

とある土曜日の昼下がり。ご高齢の男性が自転車に乗って薬局へやってきました。

おじいちゃん
おじいちゃん
これ、よろしくお願いします。
ジョ~ジ
ジョ~ジ
当薬局ははじめてですね?薬歴作成のため、問診票の記載お願いします♪

いつもながらのやりとりです。

処方箋への記載事項

さて、お医者さんに診てもらった際、みなさんも処方箋もらった経験ある方も多いですよね?

そのまま薬局に持っていく人もいるかと思いますが、処方箋にどんな情報が書かれているか、注意したことありますか?

医師法施行規則第21条には、

医師は、患者に交付する処方せんに、患者の氏名、年齢、薬名、分量、用法、用量、発行の年月日、使用期間及び病院若しくは診療所の名称及び所在地又は医師の住所を記載し、記名押印又は署名しなければならない。

とあります。

ジョ~ジ
ジョ~ジ
要するに薬以外の情報も色々と載ってるってことだね。

今回この後でキーとなってくるのは、
「病院若しくは診療所の名称及び所在地」と、
「発行の年月日、使用期間」
の2点です。

ちなみに、病院の院外処方箋だと、ここに診察科も載ってたりします。

では、肝心の処方されたお薬の内訳はどうでしょうか?

処方内容
  • アムロジピン錠 5 mg 1錠
  • カンデサルタン錠 4 mg 1錠
  • アトルバスタチン錠 10 mg 1錠
  • パンビタン末 1 g

分1朝食後 14日分

ジョ~ジ
ジョ~ジ
上2つは高血圧のお薬で、3つ目が脂質異常症のお薬だね。
4つ目は色んなビタミンが入った粉薬だよ。

いかがでしょう?
パッと見特に問題ないように見えますよね?

はじめは、パンビタン末の在庫がなかったので、他の薬局へ行っていただくか、週明けに再度お越しいただくつもりでした。

ひとまず、来局したおじいちゃんに色々と聞いてみましょう。

患者さんへの初回質問

ジョ~ジ
ジョ~ジ
今日はどうされました?
おじいちゃん
おじいちゃん
昨日病院行ってきてよぉ、また点滴してもらったんだわ。
ジョ~ジ
ジョ~ジ
そうでしたか、どこか具合悪かったんですか?
おじいちゃん
おじいちゃん
いやいや、元気なんやけどな〜

(以下略)

なるほど、「病院」で、「また」点滴して、今は「元気」なおじいちゃん。。。

さて、ここでもう一回処方箋を見てみると、

  • 処方日は1日前の金曜日
  • 処方元は外来化学療法部/呼吸器内科

となっています。

ジョ~ジ
ジョ~ジ
外来化学療法部ってのは、入院せず、通院で抗がん剤の治療が受けられるところだよ。

いかがでしょう?
高血圧の薬/脂質異常症の薬/ビタミン剤というシンプルな処方ですが、
ここまでの情報で、

一気にやばさが増してきました。

ん?なんでやばいかって?

状況を整理しましょう。

「呼吸器系」「がん治療」を行う診療科から出された、「葉酸」含有ビタミン剤の含まれる処方箋を、「翌日」「土曜日」に持ってきたのです。
しかも勤めていた薬局にビタミン剤の「在庫はない」状況です。

さて、何故やばいかお分かりでしょうか?

ジョ~ジ
ジョ~ジ
このパンビタン末1gには葉酸が0.5mg含まれてて、一部の抗がん剤の重篤な副作用が出るのを軽減するために処方されているんだよ。

以下に解説していきましょう。

薬局薬剤師とがん薬物療法レジメン

処方科情報から読み取る処方意図

結論から言うと、
この処方意図を読み解くには、呼吸器内科でペメトレキセド(商品名:アリムタ)という抗がん剤が使われることがあるという知識が必要だったのです。

ペメトレキセドは注射薬なので、まず調剤薬局でお目にかかることはありませんし、呼吸器系のがん薬物療法レジメンを知らない薬剤師さんも多いのではないかと思います。

ところで、ペメトレキセドってどんなお薬なんでしょう?

ペメトレキセド

処方箋医薬品の一つで、
代謝拮抗生抗悪性腫瘍剤アリムタ注射用100mg/500mg
として販売されてます。

効能・効果

1) 悪性胸膜中皮腫
2) 切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌
添付文書2018年8月改訂(第10版)より引用

作用機序

ペメトレキセドは、複数の葉酸代謝酵素を同時に阻害することによりDNA合成を阻害して抗腫瘍効果を発揮する。本剤は細胞内に取り込まれた後にポリグルタミン酸化を受け、チミジル酸シンターゼ(TS)、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、グリシンアミドリボヌクレオチドホルミルトランスフェラーゼ(GARFT)などを阻害する。
添付文書2018年8月改訂(第10版)より引用

ジョ~ジ
ジョ~ジ
日本語でおk。って感じだけど、葉酸の代謝に効くってとこがポイントだね。

さらに、添付文書には、こうも書いてあります。
小難しいこと書いてあるのでここではハイライト部分だけチェックしておきましょう。

用法・用量に関連する使用上の注意

本剤による重篤な副作用の発現を軽減するため、以下のように葉酸及びビタミンB12を投与すること。

(1) 葉酸:本剤初回投与の7日以上前から葉酸として1日1回0.5mgを連日経口投与する。なお、本剤の投与を中止又は終了する場合には、本剤最終投与日から22日目まで可能な限り葉酸を投与する。

(2) ビタミンB12:本剤初回投与の少なくとも7日前に、ビタミンB12として1回1mgを筋肉内投与する。その後、本剤投与期間中及び投与中止後22日目まで9週ごと(3コースごと)に1回投与する。

また、その根拠として、インタビューフォームという公式の資料には、次のように書かれています。

理由

1999年に開始された悪性胸膜中皮腫に対する外国第Ⅲ相試験では、当初、葉酸、ビタミンB12を併用しておらず、初期段階において本治療との因果関係を否定できない死亡例が7% (3/43例)に認められた。また、同時期に行った多変量解析で、ベースラインのホモシステイン高値が重度の毒性(Grade4血小板減少、Grade4好中球減少、Grade3/4下痢、粘膜炎、感染など)の発現と関連性があることが示されたことから、ベースラインのホモシステイン濃度を減少させ、重篤な副作用の発現を軽減するために、1999年12月から、本剤投与時には低用量の葉酸及びビタミンB12の併用を必須としている。悪性胸膜中皮腫に対する外国第Ⅲ相試験においても、試験期間途中から葉酸、ビタミンB12を併用したところ、本剤の有効性を損なうことなく重篤な副作用の発現が軽減される傾向が認められている。なお、国内臨床試験は全て葉酸及びビタミンB12併用下で実施している。本剤投与にあたっては、上述の投与方法に従って葉酸及びビタミンB12を併用すること。
(Vogelzang, N. J. et al. :J. Clin. Oncol., 21 (14):2636-2644, 2003, Niyikiza, C. et al. :Mol. Cancer Ther., 1(7):545-552, 2002)

ジョ~ジ
ジョ~ジ
今回おじいちゃんが処方されたパンビタン末1gにはちょうど葉酸0.5mgが含まれてるから、やっぱり副作用予防として出されてたってことだろうね。

さて、もう一度状況をおさらいしましょう。

「呼吸器系」「がん治療」を行う診療科から出された、「葉酸」含有ビタミン剤の含まれる処方箋を、「翌日」「土曜日」に持ってきた。
しかも勤めていた薬局にビタミン剤の「在庫はない」状況。

つまり、すでに金曜日に飲む分を1回飛ばしている可能性があり、その日に薬を受け取れなかった場合、土曜/日曜も服用できない可能性があります。

更に、処方箋は有効期限が発行日込みで4日なので、月曜も受け取れなかった場合、服用できない日が更に伸びる可能性があるわけです。

在庫のある薬局探しとおじいちゃんへの説明

さて、もしみなさんが薬剤師だとしたら、次にどのような行動に出ますか?
是非、少し考えて見てください。

私は、
「なんとしてもその日の内にお薬を受け取っていただき、すぐにでもその日の分を飲んで欲しい。」
と思いました。

そこで、おじいちゃんにはしばらく座って待っていただき、その日の薬局責任者に必死で事情を説明し、近辺の薬局での在庫を電話で調べてもらいました。

幸い、自転車で行ける距離に、在庫のある薬局がありました。

なんとかハードルを一つ越えました。
続いては、おじいちゃんへの説明です。

ジョ~ジ
ジョ~ジ
病院で打った点滴の副作用を予防するための、とってもとってもとっても大事な薬が出されているので、xxの薬局で今日中に受け取って欲しいです。
おじいちゃん
おじいちゃん
おう、そうか、わかった。

私は印刷した地図をお渡しして、自転車で去っていくおじいちゃんを見送りました。

本当ならしばらくした後に、先方の薬局にも来局の確認をとりたかったんですが、当時の私はそこまでできなかったのが、今でも反省すべき部分です。

私が気づくことができた、ただ1つの理由

さて、そもそも私は何故、処方科を見ただけで、普段調剤薬局と縁のない注射薬による治療を想定できたのでしょうか?

詳しくは別の記事で(そのうち)書こうかと思いますが、修士課程1年の前半6ヶ月を臨床薬剤師として過ごしたことが最大かつ唯一の理由です。

学生の身分ではありますが、他の職員の方と同じように、

  • 入院患者さん分の調剤
  • 注射薬の払い出し
  • がん化学療法を含む、点滴の混合
  • 病棟での服薬指導

を行っていました。

さらに、通常の業務終了後には、カルテデータを使った研究業務も行ってました。

この濃密な6ヶ月の中で、呼吸器内科のがん化学療法の処方箋を何度か見ていたのです。

さすがに数ある処方パターン全ての組み合わせは覚えられませんでしたが、何となく、
呼吸器 ー ペメトレキセド ー 葉酸
の組み合わせが頭に残っていたのです。

この臨床経験がなかったら、おそらく処方意図に気づくことはできなかったでしょう。

そしておじいちゃんに他の薬局でお薬を受け取ってもらうよう促すこともできなかったでしょう。

無事にあの日のうちにお薬を受け取れたと願うばかりです。

まとめ

いかがでしたでしょうか?
とてもシンプルに見える処方も、処方科や臨床ならではの注射薬が絡んでくると、奥が深い一例を紹介しました。

  1. 薬剤師はちゃんと処方箋の内容に目を光らせて調剤している
  2. がん薬物療法を知らないと院外処方の意図に気づきにくい場合がある
  3. 病院と薬局、両方を経験することで薬剤師は成長する

これらのことが少しでも伝わってると嬉しいです。

そして、

  • 一般の方には、新人薬剤師だってちゃんと処方箋のチェックをして袋詰めしていることが伝わってると嬉しいです。
  • 薬学の教員の先生方には、実務実習に向かう学生の背中を押してもらえると嬉しいです。
  • 学生さんには、実務実習に無駄な経験なんてないんだって伝わってると嬉しいです。
  • 現場の薬剤師さんには、これからやってくる学生さんが、一つでも多くのことを学べるよう指導してもらえると嬉しいです。

From bedside to bench.
ジョ~ジは臨床での経験を元に今日も創薬研究を頑張ってます。

From bench to bedside.
患者さんとご家族の方の笑顔のために。

ではではまた〜

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