論文紹介

【論文紹介(感想)】ミクログリアから神経細胞へのダイレクトリプログラミング

ジョ~ジ
ジョ~ジ
こんにちは。創薬研究者のジョ~ジです。

2019年1月上旬に、ミクログリアに遺伝子を1つ発現させるだけで神経細胞に変化し、脳梗塞や脊髄損傷の治療につながるかも?

という論文が発表されて、新聞やWeb、Twitterで話題になってましたね。
Pioneer Factor NeuroD1 Rearranges Transcriptional and Epigenetic Profiles to Execute Microglia-Neuron Conversion.(原著論文、Matsuda et al., Neuron., 2019)
脳神経、iPS使わず再生 1つの遺伝子導入で(日本経済新聞、2019/1/10)
免疫細胞から神経細胞、脊髄損傷の治療にも光 九州大(朝日新聞デジタル、2019/1/10)
脳内に存在する免疫細胞から機能的な神経細胞の作製に成功(九州大学プレスリリース、2019/1/10)

私の反応はというと、、、
発表直後にこんなツイートをしました。

ちょっと誤解も招きそうな書き方でしたね。

この記事では、論文の内容を簡単に紹介しつつ、ツイートの真意をもう少し詳しく書いてみようかと思います。

中の人はこういう見方をしてるんだ〜くらいな感じで気軽にザーッと読むくらいがちょうどいいかと思います(笑)

この論文紹介記事は多少生物学をかじったことある方を読者と想定してます。

まずは目次です。

目次
  1. この論文で明らかになっていること
  2. この論文が面白くない理由
  3. この論文がすごい理由
  4. 報道機関や広報にひとこと言いたい
  5. 最後に

この論文で明らかになっていること

ここは箇条書きでさらっと流します。

  1. 脳内免疫を担当している、ミクログリアと呼ばれる細胞に、NeuroD1という転写因子を発現させると神経細胞に変化する
  2. 分化転換過程の初期では、神経分化に関連する遺伝子群が変化する
  3. 分化転換過程の後期では、ミクログリアに関連する遺伝子群が変化する
  4. 上記2つの変化には、ヒストン修飾およびゲノムのメチル化状態の変化を伴う
  5. マウスの脳内においてもミクログリアから神経細胞への分化転換が可能である

この論文が面白くない理由

まず断っておきたいのは、私がツイートで挙げた3つの点のうち後二つの点については、筆者らもintroductionやdiscussionで引用していることから、概念としては新しいものではないというのを認識していると思われるということです。

それも踏まえて、過去の論文も引用しながら解説してみますね。

ミクログリアの分化転換はこの論文が最初ではない

この点が少し微妙な部分です。

今回の論文において、筆者らはintroductionに、

Nevertheless, direct conversion of microglia into neurons has not been achieved.(Matsuda et al., Neuron., 2019)

として、今回の報告が初めての報告だとしています。

この部分に違和感を覚えます。

。。。微妙なんですよ、過去にすでに似たような報告があるんですよ(^_^;)

  1. Microglia, a potential source of neurons, astrocytes, and oligodendrocytes.(Yokoyama et al., Glia., 2004)
  2. Microtubule-associated protein 2-positive cells derived from microglia possess properties of functional neurons.(Matsuda et al., Biochem Biophys Res Commun., 2008)
  3. A molecular pathway involved in the generation of microtubule-associated protein 2-positive cells from microglia.(Niidome et al., Biochem Biophys Res Commun., 2008)

①の論文では、愛媛大学のグループが、ミクログリアを高濃度の血清存在下で培養すると神経細胞、アストロサイト、オリゴデンドロサイトに変換することを示してます。

②の論文では、京都大学のグループが、①の方法でできた神経細胞が機能的かどうかを示してます。

そして、③の論文では、京都大学の同じグループが、ミクログリアからの分化転換に関わる細胞内シグナルに関して報告してます。

冒頭に、「微妙」と書いたのは、分化転換が“直接的かどうか”の証明が②、③の論文では、十分とは言えないからです。

例えば、ミクログリアから神経細胞への分化転換では、

  1. ミクログリア → 神経幹細胞 → 神経細胞
  2. ミクログリア → 神経細胞

という2つ場合が主に想定できます。

神経幹細胞とは、自己複製能と多分化能を併せ持つ体性幹細胞の一種です。こちらの記事も合わせてどうぞ。

これらの二つでは、前者は神経幹細胞への直接誘導(direct conversion)と神経細胞への分化であり、後者は神経細胞への直接誘導となり、全く別の現象です。

一般的には、神経幹細胞は増殖する際にBrdUやEdUといった核酸のアナログを細胞内に取り込むこととを利用し、核酸アナログを取り込んでいないということは、増殖性の中間状態を経由していない、ということを示すことにより、神経細胞への直接誘導を主張します。(神経細胞は増殖しないので、核酸アナログを取り込みません)

もちろん今回の九州大学の論文でも、そのデータを掲載しており、直接的な分化転換の根拠としています。

さて、話を戻します。②、③の論文では、この部分のデータがなく、ミクログリアの分化転換開始1〜2日後には神経細胞のマーカータンパク質であるMAP2を発現するようになること、および効率の高さから、神経幹細胞の状態は経由せず、ミクログリアが直接神経細胞に変化している、と考察してます。

以上の理由から冒頭で「微妙」という表現をしました。

とはいえ、個人的には2008年の論文における考察は的外れでもないので、今回の論文における、「第一報である」との主張は違うかなと思いました。

In vivoリプログラミングは新しくない

マウス脳内で、神経じゃない細胞を神経細胞に変化させるというのも、この論文が初めてではありません。というか、筆者らも以前にin vivo リプログラミングに関して論文出してます。(笑)

この点は、筆者らも多くの論文を引用していることからも、承知の上という感じがしますね。

興味ある方は、PubMedで「in vivo reprogramming neuron」とでも検索してみてください。

リプログラミングにおけるエピジェネティクスは新しくない

この点も筆者らは承知の上のようです。

筆者らは、今回の論文の中で、

  1. 分化転換過程の初期では、神経分化に関連する遺伝子群が変化する
  2. 分化転換過程の後期では、ミクログリアに関連する遺伝子群が変化する
  3. 上記2つの変化には、ヒストン修飾およびゲノムのメチル化状態の変化を伴う

といったことを明らかにしています。

しかし、これらは、筆者らの引用している各文献以外にも、
Direct lineage conversion of terminally differentiated hepatocytes to functional neurons.(Marro et al., Cell Stem Cell., 2011)
という、肝臓の細胞から神経細胞への直接的な分化転換を報告した論文などで多く報告されているアプローチです。

特に上にあげた論文では、神経細胞に関連する遺伝子群が変化した後で、肝細胞に関連する遺伝子群が変化するため、今回の報告と多少の共通点はあるようにも思います。

とまあ、そういった意味で、個人的にはさほどインパクトがあるとは感じませんでした。

小 括

ツイートの短い文章に込めた、”おもしろくない”と思う真意をつらつらと書いてみましたが、いかがでしたでしょうか?

もし反対意見や、理解が間違っている指摘などあれば是非コメント欄や、TwitterのDMでいただけると私にとっても勉強になります。

とは言え、なんかここまでを読むとただのアンチみたいですよね(笑)
違いますよ?ちゃんとこの論文のことすごいと思ってますよ?

この論文がすごい理由

ミクログリアを変化させること自体がすごい

クイズです!

突然ですが、次の4つの中から仲間外れを1つ指摘してください。

  1. 神経細胞(ニューロン)
  2. アストロサイト
  3. オリゴデンドロサイト
  4. ミクログリア

まぁ、出題するあたり、正解は④なんですけどね。

ミクログリアは血球の仲間

上のクイズの①〜③は、神経幹細胞という、外胚葉由来の体性幹細胞から分化します。

一方、④ミクログリアは、血液脳関門(Blood-brain barrier)と呼ばれる、中枢と末梢を隔てる障壁が未発達な発生初期に、中胚葉由来の血球系細胞(単球)が、脳に侵入し分化したものとされています。

【参考文献】
Fate mapping analysis reveals that adult microglia derive from primitive macrophages.(Ginhoux et al., Science., 2000)
ミクログリア(脳科学辞典)

なので、ミクログリアから神経細胞への分化転換は、元々神経系じゃない細胞を神経細胞に変換している点で、アストロサイトからの神経細胞への変換と大きく異なるのです。

その点において、今回の論文でin vitroおよびin vivoにおいて直接的な分化転換に成功しているのがすごいと思いました。

誘導効率がすごい

今回の論文で達成している分化転換効率がすごいんですよね。

in vitroでは約40%、
in vivoでは4週間で約75%

これだけ高効率な論文て他にあまりないんじゃないでしょうかね?

特にin vivoにおいて75%の変換効率を達成しているなら、将来的に本当に治療に繋がるんじゃないかと期待しちゃいます。

残り25%が変換できてない理由も今後明らかになっていくような気がします。

というわけで、誘導効率が非常に高い点がすごいと思いました。

データ量と密度がすごい

この記事の最初の方に、今回の論文で明らかになったことをまとめてます。

さらっとまとめてますが、この内容が一つの論文に詰まっていることがすごいです。

過去の論文を見てみると、この論文で明らかになっていることの一つ一つがトップジャーナル級なんですよ。

さんざん新しくないとか、おもしろくないとか書きましたが、

  • 初代培養
  • ウイルス実験
  • RNA-Seqと解析
  • ChIP-Seqと解析
  • PBATと解析
  • イメージング
  • 電気生理学解析

等々を駆使し、これでもかとデータを固めたのはさすがです。

というわけで、火力最大でゴリゴリとデータで固めてきてる点もすごいと思いました。

小 括

そんなわけで、この論文のすごさは少しくらい伝わりましたかね?

分化転換後のサブタイプなど、細かな疑問**はありますが、間違いなくリプログラミング界隈での超重要論文になるかと思います。

結論: この論文すごい大事

(2019/02/12)
**細胞のサブタイプについて質問をいただきましたので、補足します。

分化転換は細胞のサブタイプ制御が課題

筆者らはFig.7-E, Fにおいて、in vivoにおいてNeuroD1を発現させた線条体のミクログリアのうち、約75%がDARPP32というマーカーを発現する、線条体の投射神経になった、と示しています。

一方で、Fig. S2-I, Jでは、in vitroにおいてNeuroD1と発現させたミクログリアのうち、約25%がGAD67陽性細胞に、そして残り約75%はVGLUT1陽性細胞になった、と示しています。(もしかすると両方陽性になっている変な細胞もいるかもしれません)

  • GAD67:GABA作動性抑制神経のマーカー
  • VGLUT1:グルタミン酸作動性興奮神経のマーカー

さて、通常、脳内の線条体という部位に細胞体を持つ95%の神経細胞は、中型有棘細胞(medium spiny neuron)というGABA作動性投射神経であり、DARPP32を発現します。

したがって、筆者らのin vivoでの結果はこの知見と合致します。

一方で、in vitroではグルタミン酸作動性興奮神経が主にできていますので、in vitroとin vivoの結果が食い違うことになります。

  • NeuroD1という転写因子だけでは制御しきれない可能性
  • ミクログリアの置かれた環境に応じて、自然と必要な神経に変換される可能性

などなど、可能性は色々考えられるかと思いますので、今後の研究で明らかになることを期待しましょう!!

【参考文献】
Dopamine-deprived striatal GABAergic interneurons burst and generate repetitive gigantic IPSCs in medium spiny neurons.(Dehorter et al., J Neurosci., 2009)

ジョ~ジ
ジョ~ジ
にしてもMoogleさん(@Moogle_PhC)鋭すぎワロタwww

報道機関や広報にひとこと言いたい

今回の報道等では、新聞記事も公式のプレスリリースも「脳梗塞」「脊髄損傷」という言葉が結構強調されていたように思います。

この点が個人的には非常に違和感を覚えます。

論文を実際読めば明らかですが、ゴリゴリの基礎研究に関する論文であって、治療への応用についての言及は、introductionとdiscussionに各々1文あるのみです。

研究費を確保しやすくするとか、キャッチーなキーワードを入れた方が花があるとか、色々と思惑があるのかもしれませんが、今回の報道の仕方やプレスリリースは少し実際との乖離が目立ったように感じて残念です。

最後に

転写因子を用いた分化転換自体は、iPS細胞や神経細胞(iN細胞)よりも前に、血球系や筋肉系の細胞で知られた現象でした。

それがここ10年強(2006年~)で神経やグリア、心筋、肝臓etc などと作り分ける技術が数多く報告されるようになってきました。

いずれも分子メカニズムや治療への応用可能性といった点でまだまだ課題は多いですが、今後も興味ある分野として、研究の進展を注視していきたいと思います。

もしこの研究ジャンルに興味を持ち、ときどきこのブログも覗きにきていただけると嬉しいです♪

また、取り上げて欲しい記事等、要望あれば是非コメント欄やTwitterからお寄せください(^ ^)v

ではでは今日はこの辺で〜ノシ

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